2015年9月8日火曜日

龍の道と古道(8)古道の役割と特徴

古道については、中根洋司氏らの論文を参考にしました。インターネット検索でも論文内容が読めます。

1)「古道の災害時活用に関する一考察(土木史研究講演集)」(2008)。
2)「秋葉古道の成立過程と果してきた役割の研究(土木学会論文集)」(2012)。

論文の中から、「竜の道」を推理する上でとても参考になった箇所を紹介します。

1)古道には、様々な往来目的があった。(戦乱時の移動に使用、塩の道、信仰の道、狩猟・生活の道、文化や情報の伝達の道、等)


図と写真(新城ふるさと倶楽部HP)
2)中世以前の古い古道ほど高い尾根の道を通る。時代と共に次第に山の中腹や低地の低いルートが使われるようになった。




写真(新城ふるさと倶楽部HP)

3)古代からの古道は、地形にもよるが、目的地まで上り下りをいとわず地図上の最短距離の直線ルートを選んでいる。

全く目からうろこの大変興味深い研究報告ですね。

地図上での直線コースを行くなんて、現代の車主体の道路環境ではとても出来ない方法ですが、古代ではそれが可能だったのです。古代人の知恵と脚力はすご過ぎます。これで、「竜の道」が直線である説明も出来るわけです。

加えて、あえて高く険しい尾根の道を選んでいたのは、ちゃんとそうする意味があったのです。

理由
①見通しが良く敵や獣に対して有利。
②低地より乾いていて足場が良かった。川の横断を避けられる。
③崖の下を通らないので落石の危険を避けれる等々。

なるほど、納得です。脚力さえあれば高地を移動する方がメリットが多かったわけです。こうして、古代人は、京から東国へ、諏訪や北陸へ、東北へと最短距離を使って素早く往来していたのです。全く驚きです。

推理をまとめます。琵琶湖の東にある「竜の道」の東西直線ルートは、古代人が最短距離で移動する古道ルート(塩の道、戦の道などに使われた)のひとつであり、または道しるべであったというのが私の現時点での仮説です。

龍の道と古道(7)古道は最短距離の直線

琵琶湖の東に竜と名のつく地名が東西に一直線に並ぶことを(1)で報告しました。略して「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインです。
http://otonano-kodaishi.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html


「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ライン by Kanikama

今回はこの不思議な現象を推理してみます。

先ずは「自然現象由来説」が考えられます。地震学の専門家の話では、「まだ確認出来ていない国内の地殻断層はたくさんある」ようです。従って、この東西の「竜の道」に沿って、まだ知られていない地殻の断層とか、地下水脈、鉱脈とか、地質磁場変化等が将来見つかっても不思議ではありません。地震が発生しやすい地殻断層に沿って、古来より龍の名前の付く地名が多いという説もあります。

さて、もうひとつ全く別の観点からも考えてみましょう。「歴史的な人為的な要因で龍の地名が生まれて残った」説です。古代の様々な事件、生活様式、交通路等の背景がいろいろと重なって、長い間かけて人為的に生まれそして今に「竜の道」が残ったという考え方です。

人為的な理由の場合、kanikamaの推理ですが、古代の日本人が利用してきた古道(現代の交通路とは異なる古代の道)と深い関係があると考えています。

古道は、塩を運ぶ道、文化伝達の道、戦乱時に密かに兵士移動をする道などの目的で、東西南北の往来に使われてきました。そして古道の大きな特徴のひとつが、前述したように、出発地と目的地を最短の直線で結ぶ路だったのです。

更に「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの付近には幾つもの古道が絡み合っていました。つまり、竜の道は地元の細かい小古道につながる大古道であったのです

下の図は、現在知られている古道である「塩の道」のひとつです。南北の道です。そして、面白いことに「竜の道」と同様にほぼ一直線に並ぶ道です。やはり、古代の人達は、地図上で一直線、つまり最短距離を移動したことがわかります。

そして、東西の「竜の道」と南北の「塩の道」は、竜頭山(秋葉山)で交差しています。なんと、竜頭山は東西南北交通の十字路交差点だったのです。


「塩の道」
国土交通省関東地方整備局HP
正確な地図のなかった古代、いろいろな理由(戦乱時、塩や物資、情報の伝達等)で東西を最短距離で移動したい目的がある場合、先人たちの知恵で龍の名前が付く地名を道しるべとした。もしくは結果として道しるべとして地名を付けた。「竜」のつく地名や山を目印とし、京から東国に、また東国から京に、素早く移動したのでないでしょうか。

つまり、「竜王ー竜神ー竜頭ー竜爪」の東西直線ラインは、今まで知られていなかった東西を最短で結ぶ直線的ルートの古道のひとつであり、同時に道しるべだったのではないかと思われます。

最短ルートを結ぶことが出来る直線の古道ルート。その古道に関する興味深い最近の調査研究と文献について、次回、ご紹介します。

2015年9月6日日曜日

龍の道と古道(6)竜爪山と浜名湖の伝説

竜の道「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの一番東は、竜爪山(りゅうそうざん)です。
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竜爪山(りゅうそうざん)は、縄文・弥生時代から人が住み、「神の山」と尊敬を集めていました。
従って、竜爪山付近の伝説や民話はかなり多く残っています。松永広雄氏編集の「竜爪南嶺物語」にもわかりやすくまとめてあります。

その中の面白い話を紹介します。「考霊天皇5年(西暦299年)、空や地面が動き、富士山が現れ、その反対にくぼんだ場所が琵琶湖となった。同じ日、同じように竜爪山が現れ、その反対にくぼんだ場所が浜名湖となった。」 

富士山と琵琶湖は全国的にとても有名な場所です。浜名湖もすごく有名です。
残念ながら、竜爪山は全国的にはあまり知られていません。

この面白い昔話がもっと全国に広がり、竜爪山も有名になって欲しいですね。


さて、竜爪山の山頂付近には穂積神社があります。この地に逃れた武田軍の残党により祀られました。鉄砲祭りに隠れて密かに鉄砲の練習をした逸話もあります。また、弾除けのご利益があるとされ、山奥にもかかわらず、戦時中は全国から多くの参拝者で昼夜賑わったそうです。

龍爪山全景(静岡市立図書館 西島牧野氏図版)

竜爪権現神

鉄砲祭り(竜爪山の歴史HP参照)


竜爪山付近には古代より幾つもの古道があり、東西地区や南北地区を結んで、生活にも、参拝者たちの往来にも使われていました。

次回、「竜の道」の意味を推理してみます。

2015年9月4日金曜日

龍の道と古道(5)二つの竜頭山

今回は、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの竜頭について説明します。
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愛知県と静岡県の二つの県にそれぞれ別の竜頭山があり、東西に並んでいます。西には愛知県新城市の竜頭山(りゅうずさん)。東には静岡県天竜市の竜頭山(りゅうとうさん)です。

左:竜頭山、右:竜のオブジェ(新城観光協会)

新城市の竜頭山には次の昔話があります。

「大昔、竜頭山に住んでいた竜は真冬でも岩の上にいました。ある男が寒中に山に登っていくと、竜は凍傷で腫れ皮膚も破けてぶるぶる震えていました。男が「やせ我慢はやめて南の暖かい国に行くのが利口だよ」と言いました。竜は「そうだな」とうなずいて雲に乗って南に飛んでいきました。」

ずいぶん人間的な竜のお話で興味深いですね。これは、大昔、戦に破れて身を隠していた人達の実話かもしれません。

一方、東の天竜市にある竜頭山とはどんな場所でしょうか。仏教が入ってくる前からある日本古来の土着信仰(自然崇拝)が続いた場所です。原始的な山岳信仰(精霊信仰)が根付いています。

安藤広重 本朝名所 遠州秋葉山
実は、この竜頭山のすぐ南には有名な秋葉山があります。秋葉山は古くから秋葉山信仰=「火の神(防災・防火)」として全国に知られてます。そして、古代、秋葉神社の神体山(奥の院)が竜頭山でした。つまり竜頭山こそが、秋葉山の古代信仰のご本山といえます。

大変興味深いことに、こんな山奥なのに、古代より人の往来がかなりあったようなのです。実際、江戸時代の頃でも北は奥州(東北)、南は薩摩(九州)から、全国から参拝者があったようです。

驚くことに人々は険しい山の峰の古道を往来したのです。多くの古道がこの辺りで今も確認できるようです。

「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの意味が少しずつ見えてきました。人里から険しい山の峰に続く古代の道、古道が「竜の道」の謎を解くキーワードかもしれません。 続く。

2015年9月3日木曜日

龍の道と古道(4)竜神町の昔話

龍の道をさらに東へ移動しましょう。
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今回は、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインのほぼ真ん中に位置する愛知県豊田市の竜神町です。東名高速の豊田IC近くに位置する町です。

また、竜神町のすぐ東側に竜宮町と竜宮橋という名前も見られます。

豊田市観光協会の資料

竜神町について良く知らない方は多いと思います。私も地図を見て初めて知りました。そんな訳で、集められた情報はまだ少しです。

現時点で唯一入手出来た情報は、竜神交流館の館長さんに問い合わせて教えて頂いた昔話です。

「その昔この地に細長い池がありました。人々がこの地の開墾を始めたある日、突然黒雲が湧き上がり、見る間に池を包み、水を巻きあげ大きな竜巻となり、西から東へ大変な速さで飛んでいき、その姿はまさに天に昇る竜であったというのです。人々は池の主の竜が開墾の鍬音に驚き天に昇っていったと言い以来竜神様としてあがめ敬ったといいます。」

この付近には、まだあまり世に知られていない古代の情報が眠っているかもしれません。

しばらく調査を継続し、何かわかりましたら後で追記します

2015年9月2日水曜日

龍の道と古道(3)竜王町は東国への入口

琵琶湖の東に一直線に並ぶ「竜神ー龍王ー竜頭ー龍爪」ライン。
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今回は、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの西から2番目の竜王町についてお話します。

三上山(滋賀県)の東に竜王町(滋賀県)があります。竜王町は歴史的に大変古くから栄えた場所のようです。

竜王町には竜王山があり、西の竜王山(鏡山)と東の竜王山(雪野山)があります。二つの山には竜の支配者「竜王」が住んでいたと古い言い伝えにあります。

また、西の竜王山(鏡山)は古今集の中で多くの歌人が詠った場所です。東の竜王山(雪野山)も藤原定家、和泉式部、柿本人麻呂らが歌を詠み、また、美女と大蛇の伝説があります。

加えて気になるのは、日本歴史上大変重要な「壬申の乱」で勝利する大海人皇子と、額田王(女性)の二人がここで、恋歌を交換していることです。

大海人皇子と額田王
このように竜王町は古代から京の都にとっても大変身近で、しかも重要な場所だったことがわかります。

さらに、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインの謎解きをする上で、大変参考になる情報がありました。この竜王町が古くから東西地域を結ぶ大変重要な場所だったという事実です。

「鏡山付近は平安~鎌倉時代にかけて東国路の要塞であった。往来でかなりの賑わいだった。(竜王町の資料)」 

つまり、京から東国に行く場合は、多くはこの竜王町を通過点としたと考えて良いでしょう。

実際、歴史上有名な源義経も鞍馬山で修行をしたのち、京から東北の平泉に下る途中、この竜王町の鏡の宿に泊っています。その後、義経は竜王町から東の尾張(名古屋)に向いました。なお元服を、竜王町の鏡山で行った説と尾張で行った2説が残っています。

源義経(奥)と武蔵坊弁慶
月岡芳年作
 以上の情報から、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインは、京ー琵琶湖から東国(尾張・三河・駿 河)を結ぶ古代の重要な道であった可能性も出てきました。推理は次回に続く。

2015年9月1日火曜日

龍の道と古道(2)琵琶湖の龍神と三上山の伝説

前回、琵琶湖から東方向に向かって「竜の道」が一直線に並ぶことを書きました。
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「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ライン by Kanikama

図の左側から、三上山の龍神(滋賀県)-竜王町(滋賀県)-竜王山(滋賀県)-竜ヶ岳(滋賀県)-竜神町(愛知県)-竜頭山(愛知県)-竜頭山(静岡県)-竜爪山(静岡県)。

略して、「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ラインです。

それぞれの地には古い昔より興味深い伝説が残っています。そこで、西から東へ順番にご紹介したいと思います。

先ずは、琵琶湖を望む三上山。竜の名はついていませんが、ここにはとても有名な琵琶湖の竜神に関する伝説があります。「俵藤田のムカデ退治」です。

「琵琶湖の瀬田の唐橋で大蛇(琵琶湖の竜宮城に住む竜神)が橋をふさぐ。それを知った田原藤田は、果敢に竜神に挑み見事その橋を渡ることに成功した。竜神は田原藤田を真の勇者と認めて依頼する。三上山を七巻半している大ムカデがいて皆が困っています。どうかあなたの力で退治してください。そして田原藤田は大ムカデを無事退治し、喜んだ竜神から米俵などお礼をたくさんむらった。だから、その後は苗字の田原が俵となり、俵藤田と言われるようになった。」

この伝説は歴史上の事件を伝えている可能性が高いです。事実、この近江地方は、古代より天皇の斎田地(天皇が即位する時の新米を収穫する場所)として何度も選ばれています。つまり時の天皇が三上山付近に居た反乱者たちを沈静し、その功労者に米俵などを与えたと思われます。

琵琶湖に住む竜神の伝説から始まる「竜神ー竜王ー竜頭ー竜爪」ライン。

次回は竜王町です。

なお、結論をお急ぎの方は、「龍の道と古道(7)古道は最短距離の直線」をご覧ください。龍の路が並ぶ理由を考察しました。https://otonano-kodaishi.blogspot.jp/2015/09/blog-post_8.html